初めて赤ちゃんを連れて、新幹線に乗ったときのこと。
お題の心温まるマナー……とは少し違うかも知れないけれど感謝している話です。
上の子が赤ちゃんだった時のこと。
遠くに住む、夫の祖父が危篤になりました。
夫が大好きなおじいちゃん。
平日の夜、新幹線に夫婦と赤ちゃん、大荷物で乗り込みました。
急なことで、隣同士の席はとれなくて。
窓側の一列はびっしり疲れたビジネスマン。
みな、目を閉じて、シーン。
とても静かな車両。
家族は私たちだけ。
通路側の席だけ空いています。
前に赤ちゃんを抱いた私、後ろに夫。
隣でうたた寝しているスーツの男性に申し訳なく思いつつ、そっと座りました。
シーンとしている車内、赤ちゃんが何か言葉を発するたびにビクビクしていました。
夫はパニックになっていて、携帯を握りしめこわばった表情をしています。
窓側のビジネスマンが目を覚ましてこちらを見ました。
「起こしちゃった!」と思って、「すみません」と謝ると、
機嫌が悪くなるでもなく、「席を代わりましょう」と立ち、夫と交代して下さりました。
これが、とてもありがたかったです。
初めての赤ちゃん連れの長旅。
初めて行く場所。
緊張、不安、焦り。
夫のことも気がかりでした。
赤ちゃんを見ながら、時折夫の背中をさすり励ますことができたのも、席を代わってくださった方のお陰。
オムツ替え、電話にと、席を立つ私たち。
シーンとしている車内では、さぞかしうるさかったと思います。
でも、だれに舌打ちされるわけではありませんでした。
無事に降りる駅に着いた時に後ろの座席をみると、そのビジネスマンはもういらっしゃいませんでした。
義祖父はICUで目を閉じていました。
看護師さんに「耳は聞こえますよ」と教えられて、耳元で「おじいちゃん」と涙ながらに訴える夫。
「ひ孫を連れてきたよ」と、私も促されて入り、赤ちゃんを見せて挨拶をしました。
お見舞いにきていた夫の親族の方々と挨拶し、夜遅いので一度帰ることになりました。
夫は「おじいちゃん、また明日くるからね。頑張ってね。」と強く言ってから病院を後にしました。
親族宅に着いてすぐ、
電話がなりました。
おじいちゃんが息を引き取った、と。
あの新幹線で、誰にも咎められずに3人で乗ることができてよかった。
あの精神状態で、誰かに「ウルサイ」と言われたり、冷たい視線を投げられたら、泣き崩れていたかもしれません。
赤ちゃん連れ、子連れは、平日の新幹線に乗るな。グリーン車に乗るな。
という声を聞くことがあります。
出張で疲れているところ、子連れは目障りだと思いますが、温かく見守って下さるとありがたいです。
席を代わってくださった方、心より感謝申し上げます。有難うございました。
特別お題「心温まるマナーの話」by JR西日本